大阪地方裁判所 昭和39年(行ウ)89号 判決 1966年2月18日
大阪市旭区大宮西之町二丁目四〇番地
原告
林年秋
右訴訟代理人弁護士
水田猛男
同市同区
被告
旭税務署長
白井政男
右指定代理人検事
樋口哲夫
同法務事務官
風見源吉郎
同
草野功一
同大蔵事務官
藤原末三
同
本野昌樹
右当事者間の昭和三九年(行ウ)第八九号所得税更正決定取消請求事件について、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
被告旭税務署長が、昭和三八年一二月二二日付で、原告の昭和三六年度分の所得税につき、その所得金額を金二、二七八、二〇〇円、所得税額を金六一三、三七〇円としてなした決定のうち、所得金額金一、一〇五、五〇〇円を超える部分は、これを取消す。
原告その余の請求はこれを棄却する。
訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の、その余を被告の負担とする。
事実
第一、申立
(一)、原告の求める裁判
被告旭税務所長が、昭和三八年一二月二二日付で、原告の昭和三六年度分の所得税につき、その所得金額を金二、二七八、二〇〇円、所得税額を金六一三、三七〇円としてなした決定は、これを取消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
との判決。
(二)、被告の求める裁判
原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする、
との判決。
第二、主張
(一)、(請求原因)
一、被告税務署長は、昭和三八年一二月二二日付をもって、原告の昭和三六年度分の所得税につき、その所得金額を金二、二七八、二〇〇円、所得税額を金六一三、三七〇円とする決定をなした。
二、そこで原告より被告税務署長に対し、昭和三九年一月二一日右処分について異議の申立をしたところ、同年二月八日これを棄却する旨の決定があつたので、同年三月七日大阪国税局長に対し審査請求をしたが、同年一〇月二二日これを棄却する旨の裁決がなされた。
三、しかし、原告の昭和三六年度分の所得は存在しないから、右決定は違法である。
(二)、(答弁)
一、被告が原告主張のような所得税の決定をしたこと、原告がこれに対してその主張のような不服申立をしたことは、いずれも認める。
二、しかし、原告には、昭和三六年度分の所得として、次のごとき所得があつたものであるから、被告のなした右決定は適法な処分である。
(1) 譲渡所得
(イ)、総収入金額
原告は、その所有にかかる別紙目録記載の建物(以下本件建物と略称する)を、昭和三六年三月二二日訴外西宝開発株式会社に対し代金九五〇万円で売り渡した。したがつて、右譲渡によつて原告の収入すべき金額、は金九五〇万円である。
(ロ)、取得価額
しかるところ、右建物は、昭和三四年一〇月原告において他より買い受けて取得したものであるが、その取得価額は金四五〇万円である。
(ハ)、減価償却額
右家屋の取得後譲渡があつた時までの該家屋の減価償却額は、所得税法(昭和二二年法律第二七号。以下同じ)一〇条の四、同法施行規則(昭和二二年勅令第一一〇号)一二条の一六、昭和二六年大蔵省令五〇号固定資産耐用年数等に関する省令(昭和二六年大蔵省令第五〇号)一条によって計算すると、式の算式のとおり金二〇六、五〇〇円(一〇〇円以下切捨)である。
<省略>
(ニ)、譲渡に関する経費
原告が本件譲渡に関して支出した費用としては、仲介人である寿商事株式会社に支払つた仲介手数料金三〇万円がある。
したがつて、原告の右家屋の譲渡による所得は、(イ)総収入金額九五〇万円から(ロ)取得金額四、二九三、五〇〇円(前記取得金額四五〇万円から減価償却額二〇六、五〇〇円を控除した金額。所得税法一〇条の四第二項)および(ハ)譲渡経費三〇万円を控除した金額、すなわち金四、九〇六、五〇〇円である。
(2) 総所得金額
右のとおりであるから、原告の昭和三六年度における総所得金額は、右の譲渡所得から特別控除額金一五万円を控除した金額の十分の五に相当する金額二、三七八、二七五円である。したがつて、原告の右年度における所得金額をこれより少い金二、二七八、二〇〇円としてなした本件決定は、適法な処分である。
(三)、(原告の主張)
一、原告が被告主張の頃に本件建物を訴外西宝開発株式会社に譲渡したこと(ただし、その譲渡代金は九四〇万円である)、原告が右建物を代金四五〇万円で他より買い受けたこと(ただし、その買受けの日時は昭和三二年六月一九日である)は、いずれも認める。
二、しかし、原告は、本件建物について式のとおり設備費、改良費を支出している。
(一)、昭和三二年夏頃、訴外綱島工務店に請負わせて右建物の二階増築工事を施したが、その工事費は金二七〇万円である。
(二)、昭和三四年九月頃、訴外大倉振興株式会社に請負わせて、右建物の二、三階改造工事をしたが、その工事費は金一五〇万円である。
(三)、昭和三五年九月頃、同訴外会社に請負わせて、同建物の一、二階改造工事をしたが、その工事費は金一三〇万円である。
以上のとおり、原告は、本件建物について合計五五〇万円の設備費、改良費を支出しており、しかも右金額を総収入金額から控除すればなんらの譲渡も存しないことになるから、被告の本件決定は違法といわなければならない。
(四)、(原告の主張に対する被告の反論)
原告がその主張のような工事費を支出した事実は存しない。ちなみに、本件建物は昭和三七年四月頃取毀されているのであって、この点から考えても、原告がその主張張の頃にその主張のような工事を施してその工事費を支出したような事実があるはずがないというべきである。
第三、証拠
(一)、原告
甲第一ないし第六号証を提出し、証人綱島正之、同大和民蔵の各証言ならびに原告本人尋問の結果を援用し、乙号各証の成立を認めた。
(二)、被告
乙第一号証の一ないし三、第二号証の一、二、第三号証、第四号証の一、二を提出し、甲第一号証の成立を認め、その余の甲号各証は不知と述べた。
理由
一、被告が原告主張のような所得税の決定をしたこと、原告がこれに対してはの主張のような不服申立をしたことは、いずれも当事者間に争いがない。
二、しかして原告は、右決定は違法であると主張し、被告は、原告には昭和三六年度の所得として右決定額を超える譲渡所得があつたものであるから、右決定は適法であると主張するので、以下、この点について判断する。
(1) 譲渡所得
(イ)、総収入金額
原告が昭和三六年三月二二日、その所有にかかる本件建物を訴外西宝開発株式会社に売渡したことは当事者間に争いのないところ、被告は右売買代金は九五〇万円であると主張し、原告はこれを争うので考えるに、成立に争いのない乙第一号証の一、二、原告本人尋問の結果により真正に成立したと認められる甲第五号証ならびに右本人尋問の結果によると、右売買代金は九四〇万円であると認められ、右認定に反する証拠はない。すると、右譲渡によつて原告の収入すべき額は、金九四〇万円であるといわなければならない。
(ロ)、取得価額
しかして原告が、右建物を他より金四五〇万円で買受けたことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第一号証ならびに原告本人尋問の結果によると、右買受の日時は昭和三二年六月一八日であることが認められる。したがつて、右建物の取得価額は四五〇万円である。
(ハ)、改良費、設備費
しかるところ原告は、本件建物について合計五五〇万円の改良費、設備費を支出したと主張し、被告はこれを争うので次にこの点について検討する。成立に争いのない乙第二号証の一、二、第三号証、第四号証の一、二、証人網島正之、同大和民蔵の各証言を総合すると、次の各事実を認めることができる。すなわち、(1)本件建物は、原告においてこれを買受けた当時、屋根に瓦を葺き、外側に荒壁を塗つた程度の未完成の二階建建物であつたところ、昭和三三年六月頃、原告が訴外網島一級建築士事務所こと網島正之に請負わせて、これ完成建物とするとともにその内部を改装する工事をしたこと、右工事代金は、金一六〇万円を超えるものではなかつたこと、(2)その後、訴外大倉振興株式会社に請負わせて、昭和三三年七月に右建物を三階建とする増築工事を、また同三四年の九月に同建物一階のドアのつけ換、店舗ならびに炊事場の改装工事を施し、その工事代金として合計金一、五七八、八〇〇円の支払をしたこと。以上の各事実である。もつとも、原告本人尋問の結果中に、右網島に支払つた工事費は金二七〇円であり、大倉振興株式会社に支払った工事費は合計二八〇万円である旨の供述があり、また、証人網島正之の証言により真正に成立したと認められる甲第三号証、さらに甲第四号証中に右原告本人の供述と同趣旨の記載があることは明らかである。しかしながら証人網島正之の証言および成立に争いのない乙第二号証の一、二によると、右甲第三号証は、前記網島において、原告に求められるまま正確な記憶や記録に基づくことなく、原告の記載した書面に押印したものであるにすぎないことが認められ、また、甲第四号証についてはその成立の真正を認めるに十分な証拠は存在しない。のみならず、右原告本人の供述についても、証人網島正之、同大和民蔵の各証言に照らして、直ちにこれを信用することができないのであつて、しかも、他に前記認定を左右するに足りる証拠はない。(成立に争いのない甲第一号証によると、本件建物が昭和三七年四月二五日取毀されたことは明らかであるが、その事実によつて右認定が左右されるものでないことはいうまでもない。)。そうだとすると、原告は、本件建物につき合計金三、一七八、八〇〇円相当の改良費、設備費を支出したものと認めるのが相当であるといわなければならない。
(ニ)、減価償却額
本件建物の譲渡による所得の計算については、その所得価額、改良費、設備費は、それらの金額の合計額から所得税法施行規則(昭和二二年勅令第一一〇。以下同じ)一二条の一六によつて計算した減価の累積額を控除した金額をもつてその取得価額、改良費、設備費とすべきところ、(一〇条の四)、右減価の価額の累積額は次のとおり金九二一、四五六円である。
(a) 本件建物の取得価額ならびに設備費および改良費の合計額金七、六七八、八〇〇円
(b) 右建物の残存価額金七六七、八八〇円(規則一二条の一三第四項)
(c) 本件建物と同種の固定資産の耐用年数三〇年(昭和二六年五月三一日大蔵省金五〇号固定資産の耐用年数等に関する省令一条別表一。同五条別表一〇、なお本件建物が事業の用に供する建物であることは証拠上明らかであるから、右減価の価額の計算については、その耐用年数は、右省令の規定どおりこれを三〇年償却率〇、〇三四、とする)。
(d) 本件建物の取得の日から譲渡があつた日までの年数四年(規則一二条の一六第二項により、六月以上一年未満の端数は、一年とする)。
(a-b)c×d=(7,678,800-767,880)×0.034×4=939,885(円以下切捨)
(ホ)、譲渡に関する経費
原告が、本件譲渡に関する経費として仲介入である寿商事株式会社に対し仲介手数料金三〇万円を支払つたことは、原告において明らかに争わないから、これを自白したとみなすべきである。
そこで、原告の右家屋の譲渡による所得は、総収入金額九四〇万円から取得金額ならびに改良費および設備費の合計額(前記買受価額四五〇万円ならびに工事費三、一七八、八〇〇円の合計額から右減価償却額九三九、八八五円を控除した金額。法一〇条の四第二項)六、七三八、九一五円と譲渡経費金三〇万円とを控除した金額、すなわち、金二、三六一、〇八五円であるといわなければならない。
(2) 総所得金額
右のとおりであるから、原告の昭和三六年度における総所得金額は、右の譲渡所得から特別控除額金一五万円を控除した金額の十分の五に相当する金額、すなわち金一、一〇五、五四二円であるというべきである。
三、以上のとおりであるとすると、原告の昭和三六年度分の所得税について、その所得金額を金二、二七八、二〇〇円としてなした本件決定のうち、右所得金額一、一〇五、五〇〇円(一〇〇円以下切捨)を超える部分は違法であり、原告の本訴請求はその限度において正当であるから右の部分を取消すこととし、その余の請求を棄却訴訟費用の負担につき民事訴訟法九二条本文を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 石崎甚八 裁判官 藤原弘道 裁判官 福井厚士)
目録
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一、木造スレート葺三階建店舗兼居宅
一階 一五・〇四坪
二階 一四・九三坪
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以上